「どうやるか」はもう設計の中心じゃない — AI時代に残る仕事の話
業務システムを設計するとき、以前は画面の設計やワークフローの組み方に時間の大半を使っていた。どのボタンをどこに置くか、どの順番で入力させるか、承認フローをどう回すか。
AIがこの部分を担えるようになった結果、設計で勝負する場所が変わった。画面はAIが作れる。手順もAIが組める。では人間は何を設計するのか。
答えは「何のためにやるのか」と「何を許容し、何を許容しないか」の設計だ。
設計の五つの層
業務の設計を分解すると、五つの層に分かれる。
一番下がUI——画面やインターフェース。その上が実装——ツールやワークフローの配置。ここまでは、AIがかなりの精度で生成できるようになった。
その上にあるのが構造——データをどう定義し、誰が何に責任を持つか。さらに上がポリシー——何を許容し、何を許容しないか、例外にどう対処するか。
一番上にあるのがコア——この業務は何のためにあるのか、こうありたい姿は何か。
従来の業務設計は、下から上に向かって作ることが多かった。まず画面を作り、ワークフローを組み、使いながらルールを整理する。上位の「何のため」は暗黙のまま残りがちだった。
AI時代の設計は、この順序を逆転させる。コアとポリシーが先にあるからこそ、下位の層をAIに任せられる。
「こうありたい」を持っている組織は強い
AIを導入して成果が出る組織と出ない組織の差は、ツールの使い方ではなく、「自分たちは何を実現したいか」が言葉になっているかどうかにある。
コアが明確な組織では、AIは一貫した方向に動ける。「この会社は顧客対応のスピードを最重視する」と決まっていれば、AIの判断基準もそこに揃う。振り分けの優先順位も、下書きのトーンも、コアから降りてくる。
コアが曖昧な組織では、AIは局所最適にしかならない。部署ごとにバラバラの基準でAIを使い、全体として何を目指しているのかわからない状態になる。AIが悪いのではなく、方向を指し示すものがないだけだ。
「願い力」という言い方
「こうありたい」を言語化して、それを組織の設計に落とし込む力を、自分は「願い力」と呼んでいる。少し大げさに聞こえるかもしれないが、実感としてはこれが一番近い。
作業を速く正確にこなす力は、AIが肩代わりできるようになった。問題を分析してレポートにまとめる力も、AIがかなり担える。
AIに代替されにくいのは、「そもそもこの業務は何のためにあるのか」を問い直す力、そして「うちはこうありたい」を言葉にする力だ。これは効率化の話ではなく、組織の意思の話だから。
採用も育成も変わる
この視点で見ると、組織の人材要件も変わってくる。
採用で見るべきは、作業遂行力よりも問題定義力だ。「この作業をこなせるか」ではなく、「何が問題かを自分で定義できるか」。作業はAIがやる。何をやるべきかを決める力のほうが希少になる。
育成で伸ばすべきは、AIの出力を検品できる力と、判断基準を言葉にできる力だ。AIが出した答えが正しいかどうかを見極めるには、その業務の「なぜ」を理解している必要がある。手順を覚えるだけでは、検品はできない。
ある大手企業の現場で、AIを使ったナレッジ共有の仕組みを入れたところ、入社2年目の若手が参画1週間で設計の根本的な疑問を投げかけた、という事例がある。ベテランの知見にAI経由でアクセスできたことで、「問いを立てる能力」が加速した。手順を教わるのではなく、判断の根拠に直接触れられたからだ。
手順は飛ばせる。判断基準は飛ばせない。
これは会社のバリューとしても掲げていることだけれど、AIの時代にますます実感する。
手順——どのボタンを押すか、どの順番で処理するか——は、AIが生成できるし、業務が変われば手順も変わる。覚えても、すぐに古くなる。
判断基準——なぜそうするか、何を優先するか、どこまで許容するか——は、業務が変わっても核が残る。むしろ、環境が変わったときに判断基準があるからこそ、新しい手順を生み出せる。
AIに「何を判断させるか」を設計するためには、まず人間が「自分たちは何を判断基準にしているか」を言語化しなければならない。AIの導入は、この言語化を強制する装置でもある。
設計者の仕事は変わった
業務設計の仕事は、画面やフローを描くことから、組織の判断基準を引き出して構造にすることに移った。
経営者やベテランの頭の中にある「こうあるべき」を聞き出して、言葉にして、AIが参照できる形に落とす。ポリシーを定義して、例外の扱いを決めて、責任の線を引く。
見た目は地味になったかもしれない。きれいな画面のモックアップを作るほうが、仕事をしている感覚は出やすい。でも、コアとポリシーのない画面は、見た目がきれいなだけで何も解決しない。
逆に、コアとポリシーがしっかりしていれば、画面は後からいくらでも変えられる。AIが生成すれば一瞬だ。変えにくいのは上位の層で、変えやすいのは下位の層。時間を使うべきは、変えにくいほうだ。