代行と内製化、どちらが得か — 6ヶ月で逆転する損益分岐の読み方
「外に出すか、中でやるか」。業務の設計をしていると、この問いは必ず出てくる。直感で答えが出ることもあるが、直感は規模が変わると外れる。月に10件の業務と100件の業務では、答えが逆転することがある。
だから数字で置く。感覚を否定するのではなく、感覚を検証する道具として数字を使う。
代行(BPO)のコスト構造
業務を外部に代行してもらう場合、コストはこういう形になる。
固定費: 月額の基本料。オペレーター、システム、ツール、管理コストが含まれる。中小企業向けのBPOだと、業務の内容にもよるが月額30万〜60万円程度が相場になる。
従量費: 一定件数を超えたら1件あたりいくら、という追加料金。月50件を超えたら1件4,000円、というような設計が多い。
BPOのメリットは、初期投資がほぼゼロで始められること。契約した月から業務が回る。デメリットは、やめるまでずっと同じ月額がかかること。業務量が増えると従量費が乗って、じわじわ高くなる。
内製化のコスト構造
自社で業務の仕組みを持つ場合、コストの形が変わる。
初期投資: 業務設計、システム構築、人の採用と教育。内容によるが、3ヶ月〜6ヶ月分の準備期間と、その間のコストが先に出る。小規模なものなら100万〜200万円、システム込みだと300万〜500万円程度。
ランニング: 人件費、システムの保守、ツール利用料。ただしBPOと違って、業務量が増えても比例しては上がらない。仕組みが回っていれば、50件でも100件でも、かかるコストはあまり変わらない。
内製化のメリットは、一度仕組みを作れば限界コストが下がること。件数が増えるほど1件あたりのコストが安くなる。デメリットは、最初にまとまった投資が要ること。そして、仕組みを維持し改善し続ける力が社内に必要なこと。
損益分岐点はどこにあるか
二つのコスト曲線を並べると、交差する点がある。それが損益分岐点だ。
BPOは月額が一定(+従量)なので、コストは時間に比例して直線的に積み上がる。内製化は最初にドンと出て、あとは緩やかに積み上がる。
典型的なケースでは、6ヶ月〜12ヶ月で線が交差する。つまり、半年から1年以上その業務を続けるなら、内製化のほうがトータルコストは安くなる。
ただし、これは「仕組みがちゃんと動いたら」の話だ。内製化に失敗して作り直しになれば、初期投資が倍になって損益分岐点は遠のく。仕組みを回せる人が辞めれば、また外注に戻ることになる。
数字だけでは決まらない判断軸
コスト比較は必要だが、それだけでは決められない。実際に判断するときに効く軸が三つある。
一つ目は、その業務が自社の競争力に直結するかどうか。 競争力の源泉になる業務——たとえば顧客対応の質や、見積の精度——は、外に出すと改善のサイクルが回しにくい。現場で気づいたことをその日のうちに反映する、という動きは、外部委託では構造的に難しい。こういう業務は、コストが多少高くても内製化する理由がある。
二つ目は、業務量の見通し。 今は月20件でも、半年後に50件、1年後に100件になる見込みがあるなら、内製化の投資は早めに回収できる。逆に、件数が読めない、あるいは減る可能性がある業務は、BPOで変動費化しておくほうが安全だ。
三つ目は、社内に仕組みを回せる人がいるか。 内製化は「作って終わり」ではない。業務が変わればルールも変わるし、例外も出る。それを拾って仕組みを直し続ける人がいないなら、外部の専門家に任せるほうが結果として安定する。
「全部内製」も「全部外注」も危ない
実際の現場では、全部を一方に寄せるのはリスクが高い。
全部内製にすると、仕組みを作る・回す・直す負荷が社内に集中する。人が足りなくなると、結局は属人化の別の形に戻る。
全部外注にすると、業務の中身がブラックボックスになる。委託先を変えたいときに引き継ぎができない、という状況に陥りやすい。
現実的なのは、業務を分解して、部分ごとに判断することだ。入口の受付と振り分けは内製で仕組み化する。専門性の高い処理や、繁閑差の大きい部分は外部に出す。判断と改善のサイクルは自社に残す。
この「どこで切るか」を設計するのが、業務設計の仕事だと思っている。
まず置くべきは「続ける期間」と「件数の見込み」
代行か内製かで迷ったら、まず二つの数字を置く。
一つは、その業務をあと何ヶ月続けるか。6ヶ月未満なら、たいていBPOのほうが安い。1年以上なら、内製化を検討する価値がある。
もう一つは、月あたりの処理件数と、その伸び方。件数が固定なら比較は単純だ。増える見込みがあるなら、内製化の優位性は時間とともに広がる。
数字を置いたうえで、競争力・人材・リスクの軸を重ねる。全部が内製に倒れることも、全部が外注に倒れることも、まずない。業務ごとに答えが違う。
大事なのは、感覚ではなく根拠で判断すること。そして、一度決めたら終わりではなく、半年ごとに前提が変わっていないか見直すこと。環境が変われば、最適解も変わる。